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那覇家庭裁判所沖縄支部 平成7年(少ロ)1号 決定

少年 N・K(昭52.5.14生)

主文

本件については、補償しない。

理由

1  当裁判所は、平成7年6月14日、本人に対する平成7年少第2034号業務上過失致死、道路交通法違反保護事件において、送致事実が認められないとして、本人を保護処分に付さない旨の決定をした。

同保護事件の記録によれば、本人は、上記送致事実とほぼ同一の被疑事実に基づき、平成6年12月28日に逮捕され、引き続き同月30日に勾留され、平成7年1月12日に釈放されるまで、合計16日間身柄を拘束されたことが認められるので、本人に対して、少年の保護事件に係る補償に関する法律(以下「少年補償法」という。)所定の補償をすることが必要か否かについて検討する。

2  送致事実の要旨は、本人が、平成6年12月27日午前3時ころ、沖縄県沖縄市○○×丁目××番×号先道路において、〈1〉酒気を帯びアルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態で、原動機付自転車(以下「本件車両」という。)運転した、〈2〉業務として同車両を運転中、業務上の過失により、同所付近の道路端縁石に同車前輪を衝突させ転倒し、同乗していたA(当時17歳)を同所において頸椎損傷のため即死させたというものであるところ、当裁判所が、同事実について、本人を不処分とした理由は、前記日時・場所において、本人及びAが乗車していた本件車両が事故を起こし、その結果として、Aが頸椎損傷のため死亡した(以下「本件事故」という。)ことは明白であるものの、同事故当時、本件車両を運転していたのが、本人なのか、Aなのかが不明であるとの結論に達したからである。

もとより、少年保護事件において身柄拘束を受けた少年が、非行事実の認められないことを理由として不処分とされた場合、なお嫌疑は残るとしても、原則として、少年補償法上の補償を受けられると解すべきである。

しかるに、本件事故については、〈1〉平成6年8月31日に原付運転免許を取得したばかりであり、かつ、未成年者でありながら飲酒癖を有する本人が、本件事故前夜、居酒屋に本件車両で赴き(本人は、当初から、飲酒運転で居酒屋から帰宅するつもりであった旨供述している。)、友人らと飲酒したが、本人、A及びBの3名が最後まで同店に残ったところ、Bが、Aの乗ってきていた原付を借りて帰ってしまったため、本人所有の本件車両に、本人及びAが2人乗りして行かざるを得なくなり、本件事故に至ったものと認められること、〈2〉本件車両に乗車していた2名のうち、一方(A)が死亡し、他方(本人)が記憶喪失を主張する状況下で、本件事故当時の同車両の運転者の特定のため、捜査段階において、前記程度の期間、本人の身柄を拘束することは、本件事故の内容及び重大性に照らし、必要かつ相当であったと認められること(なお、本人は、捜査段階において、本件事故当時、本件車両を運転したのは自分ではない旨の明確な否認は、一度もしていない。)、〈3〉もともと本人が本件事故当時の記憶を失ったのは、約4時間にわたる過度の飲酒の影響によるものと解されるところ、その状態を招いたのは本人自身にほかならないこと(科学捜査研究所の回答によれば、本件事故当時、本人の呼気1リットル中のアルコール量は、0.49ないし0.64ミリグラムと推定されている。)、〈4〉仮に、Aが本件事故当時の本件車両の運転者であったとしても、この場合、本人は、Aの飲酒を知りつつ、自己所有の本件車両をAに運転させ、あるいは同人の運転を許諾して、自分も同車に同乗したものと解される(確かに、普通乗用自動車等の場合なら、本人が酔いつぶれたので、Aが本人の知らないうちに、同車に同人を乗せて運転したということもあり得るが、原付では、本人が知らないうちに、あるいは本人の意に反して、Aが本人を同車後部に乗せて運転したというのは考え難い。)ところ、本人の右行為は、反社会的で、道義的に非難されるべきものであることはもとより、法律的に見ても、飲酒運転の教唆ないし幇助と解し得ること等の事情がある。

これらを考慮すれば、本件は、少年補償法3条3号所定の「補償の必要性を失わせ・・・る特別の事情があるとき」に該当するので、同条本文により、本人に対し、補償の全部をしないこととし、同法5条1項により、主文のとおり決定する。

(裁判官 松田俊哉)

〔参考〕 業務上過失致死、道路交通法違反保護事件(那覇家沖縄支 平7(少)2034号 平7.6.14決定)

主文

本件について少年を保護処分に付さない。

理由

1 送致事実の要旨は、少年が、平成6年12月27日午前3時ころ、沖縄県沖縄市○○×丁目××番×号先道路において、〈1〉酒気を帯びアルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態で、原動機付自転車(以下「本件車両」という。)を運転した、〈2〉業務として同車両を運転中、業務上の過失により、同所付近の道路端縁石に同車前輪を衝突させ転倒し、同乗していたA(当時17歳)を同所において頸椎損傷のため即死させたというものである。

2 ところで、上記1記載の日時・場所において、少年及びAが乗車していた本件車両が事故を起こし、その結果として、Aが頸椎損傷のため死亡した(以下「本件事故」という。)ことは、関係証拠から明白であるが、同事故については、目撃者が遂に出現せず、少年も、本件事故の直前まで、沖縄市○○在の居酒屋で、友人らと飲酒していたことは認めているが、同事故そのものの状況については、要旨、少年が、現場で気が付いた時には、Aが付近に倒れており、同事故当時、本件車両を運転していたのが、少年なのか、Aなのか記憶がない旨供述している。

そして、この点に関する少年の供述は、捜査初期の段階からほぼ一貫しており(自分が運転していたと思う旨の供述が、部分的に存するが、これは少年の推測に過ぎないものと解される。)、審判廷でも同様に述べているところ、少年が、ことさら虚偽を述べているとは解されない。

また、同居酒屋において、少年及びAと共に飲酒していた友人らのうち、最後まで少年及びAと一緒にいたBも、同日午前2時半ころ店を出た時、少年及びAは、まだ店内に残っていたので、「帰るよ。」と声をかけて別れた旨供述しており、少年とAのいずれが、本件車両を運転して店を出発したかは見ていないとする。

もとより、本件車両が少年の所有であり、同居酒屋には少年が運転して行っていることを考えると、本件事故当時、少年が本件車両を運転していた可能性を否定することはできないが、他方、関係証拠から認められる同事故の状況に照らすと、Aが本件車両を運転していた可能性も存するから、結局、一件記録及び当裁判所における調査・審判の結果を総合しても、少年が本件事故当時、本件車両を運転していたと認定するには、合理的な疑いを払拭し得ず、本件送致事実は認められないことに帰する。

3 以上によれば、本件につき少年を保護処分に付することができないので、少年法23条2項適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 松田俊哉)

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